めでたい会議

私達が感じた「羊と鋼の森」の世界

羊と鋼の森

昨年、リスが読んでいた小説「羊と鋼の森」(2016年第13回本屋大賞受賞作)が映画化。今日から公開されたようだ。

この物語は、ピアノの調律師の世界を描いた作品。⇒ 「羊と鋼の森」公式サイト

 

私達は、コンサートの音響、コンサートホールでの録音、ホールの管理などをおこなっていることもあり、職業柄、調律師の方と会う機会も多い。

この仕事をする前は「調律師」という職業があるのは知っていたが、その仕事を目にすることは無かったし、仕事内容についてはまったく知らなかったとも言える。

今日は、私達が感じた「羊と鋼の森の世界」をご紹介。
少々、偏ったお話もありますので話半分にお楽しみください。

 

そもそも、調律師とはどんな仕事?

調律師とは、ピアノの調律(ピアノの音程を整える)や、保守管理を専門に行う職業。
(ウィキペディアより)

もうちょっと分かりやすく言うと、ピアノの各鍵盤を弾いた時に出る音の高さを調整する調律と、ピアノ内部で動く機構に関しての調整の保守・管理を行うオシゴト。

調律師が持っておられるカバンは重く、ピアノの弦の張力を変えるチューニングハンマーという道具の他…ペンチ、木槌、ヤスリなど、中には「これは何の為に使うもの?」なんて思う普段見かけないような、色々な道具が入っている。

服装ひとつとっても、スタイルはさまざま。
スーツで調律する方、カフェの店員さんのようなエプロンをつける方などなど。どちらかと言うと、シックな感じが多い。

コンサートチューナー

コンサートで使われるピアノを調律する調律師のことだ。

 

 

コンサートチューナーになるには、調律師としてのキャリアも必要なようで、残念ながら?その映画の主人公役の俳優・山﨑賢人さんみたいな、若手イケメン調律師には今まで会ったことはない。

「ホール内に調律の音だけが響く…」

なかなか絵になる光景なのだが、私達が携わる現場では、残念ながらあまり見かけない。

ピアノ調律は、約一時間半から二時間を要する。
調律中の舞台上への立ち入りを禁止しているコンサートホールもたまにあるが、多くのホールは舞台への出入りもOKだ。

時間の関係上、コンサートの仕込みをピアノ調律と平行して行わなければ、コンサートの準備が間に合わないという現実がある。

舞台美術、照明、音響(音を出さずにできる作業:スピーカーをたてたりケーブルをつないだり)がそれぞれ仕込みをしている時は、そこそこ大きな作業音や話し声もホール内に響く。そんな環境下での調律は、さぞかし難しいだろうと想像する。

いろんな音が鳴る中、ピアノの音だけに集中する。。聖徳太子級の判別力が要求されるのだ。

音の表現は様々

コンサートにおいての調律では、調律が終了するとピアニストがチェック(引き渡し)を行う。

ピアニストが弾いて確認をし「はいOKです~」となって、引き渡しが完了。チェック時にリクエストが出てきた場合は、引き続き微調整を行う場合もある。

音へのリクエスト「例:もっとクリアに」の他、ダンパーペダルの返り具合、踏み込みの感触など、抽象的から具体的な様々な要望がリクエストされ、再調整することも。

また、ピアニストによっては「このあたりの鍵盤の音だけ、もう少し柔らかい音にしてほしい」といったリクエストが出る場合もあったりと‥音の表現も様々。

「柔らかく」「明るく」から、「ベールを一枚はがす感じにしてほしい」なんていうのも。いろんな表現を解読し、感じ取る能力も必要な調律のオシゴト。

 

ちょっと個性的な方々

いろいろなコンサートホールや会館に行く私達。
たまにキャラクターの濃い調律師の方に出会うことがある。

耳キーン。
やたら力強く…ホール内に響く「タダーン」「タターン」「カカーン」という調律の音。

調律中、皆さん鍵盤を叩いたり弾いたりして音を確認されるのだが、これまで出会った中で最大ボリュームの確認音を発する調律師さん。その音のパワーに、音響さん(わたしね)もタジタジ。ピアノは打弦楽器に分類されることを再認識した。

 

ニコチンパワーで高速化?
調律の間は、ホール内に立ち入り禁止の会館。

静寂の中、調律が行われると思っていると…開始から5分もたたないうちに調律師がホールの外へ。トイレ?と思われたが、数分後、ニコチンのにおいをまとって戻ってこられた。

そして30分後、さっき見たような光景が繰り返される。出て行かれたと思うと、ニコチン臭をまとって戻ってこられる。デジャブ?

そして1時間後「もう、ホール内へ入ってもいいよ。」と入場を許可された…なんともスピーディな調律である。ニコチンパワーおそるべし。

 

ピカピカNo.1
若干早めに、いや、まぁまぁスピーディに音程の調整と諸々の作業が終わった。
その後、調律師の方はピアノを磨く磨く。ピアノ磨きにかなりの時間を割いていた。

今まで見たピアノの中で、そのホールのピアノが一番キラキラしていた。あくまでも、見栄えの話ですが…。

 

調律師のなり手が少なくなってきたと聞く。
時には過酷な環境の中(冬のホールはすごく寒かったりする)ピアノ弦の張力と戦い、時には腱鞘炎になることもあるそんな職業。

扱うのはピアノの音。そもそも「音」は目に見えず、主観も人それぞれ。
言葉で表現するにも、その言葉からイメージするモノも人それぞれ。

チューナーで周波数的に正しい音にすることはできても‥
『人の耳には必ずしもそれが「美しい音」とは限らない。そこが調律師の腕の見せどころ。』と話しておられた方もいた。

本好きなリスは、映像でどんな風に表現されるのだろぅと期待しているが‥

ここまで記事を書いてきた私。
実は‥この小説を読んでいない。

映像化にあたって、ピアノの音質や音響効果などがどうしても気になるところだが、日頃見ているリアル調律師さんの世界と『羊と鋼の森』の世界を見比べてみるのも楽しそうだと思っている♪

 

< 原作本 pick up >


羊と鋼の森 (文春文庫)

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Taicho and Risu
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