今でこそ、コンサートの音響を担当させていただいておりますが、私のコンサート(ライブ)音響デビューは、突然やってきた “ある夏の日” のこと。
夏フェス、琵琶湖畔コンサート
高校時代。
バンド活動に没頭して楽しい生活を送っていたせいか?見事に受験に失敗。
浪人生活を許してくれた親の手前、音楽活動は自粛を余儀なくされたものの、たまに親の目を盗みつつ気分転換にギターを弾いていた。
そんな浪人生活の夏。
組んでいたバンドが琵琶湖畔で開催される真夏の夜のライブイベントに出場することになった。
さすがに、受験勉強があるので、ギター練習&バンドの練習に参加する時間はないし、メンバーには「ちょっと参加は無理だわ~」とごめんなさいをして、私を除いたメンバー4人(キーボード、ギター、ベース、ドラム)で出場となった。
不参加にはなったものの、やはり気になるライブ。
当日は受験勉強をお休みにし、バンドメンバーに同行して会場へ向かうことにした。
すでに運転免許を取得していたメンバーの軽トラックに機材を乗せて、一路ライブ会場へ。
置き去りの音響機器、音響オペは何処?
ライブに関する情報は、まったく知らなかったので、どんな会場でどんな出演者が他にいるのかもわからない。
真夏の夜の湖畔ライブなんだから、ちょっと大人なイベントだろうと勝手に想像していた。
機材を乗せた軽トラックは、ライブ会場に到着。
おや?広さにしたら約8帖程度だろうか?
木枠と足場板で組まれているステージらしきものは、ステージというより、盆踊りのヤグラに近いものだった。
提灯はなかったけど、こんな感じ。
さらに驚いたことに、ドラムやギターアンプやベースアンプの楽器類、音響機材はステージ上に雑に置かれたままで、イベント主催者も音響担当者も誰かわからない状態。
一向に準備が進む気配はない。
かとって、今話題の『演奏出来ないし帰る』というわけにもいかず。
仕方ないなぁと、出演者自らの手による設営が始まった。
とりあえずドラムや、ギターアンプ、ベースアンプなどを設置。
音響機材はあるものの、音響オペレーターもいないので‥とりあえず、オーディオ小僧の私が、音響機材の設営を始めた。
モノがありません。
当時、素人の私が見ても明らかに音響機材が足りない。
マイクの本数も足りないし、ミキサーはあるものの、スピーカーは客席用スピーカーしかない。
通常ならば、演奏者が自分の演奏を聴くためのモニタースピーカーを用意するが、見当たらなかった。
このモニタースピーカーは非常に重要だ。大きな音量の出る楽器(ドラム、エレキギター、エレキベース等)が鳴っている中では、これが無いと自分の歌声が聴こえない。
とりあえず、音楽雑誌で仕入れた知識を総動員して、マイクをミキサーにつなぎ音が出せる状態にした。
何かの雑誌で‥
と書いていたのを思い出し、お客様用スピーカーをステージ後ろに設置。これで、演奏者が自分達の演奏&歌が聴こえる状態にすることができた。
ようやくリハーサルを開始。
結局その後も音響のオペレーターは見当たらないので、やむを得なく私がオペ(音響オペレーター)をすることに。
予期していない形で訪れた、ライブ音響のデビュー。
音響機材がろくに無い&何の準備もしていない素人の私の音響オペ。不平不満が出ることも無くリハーサルは進行した。
自分達のバンドのリハーサルが終了した頃、ちょっと年上の大学生バンドがやってきた。
登場!オラオラ系大学生バンド!
登場した年上大学生バンドは、ステージ設営を行っている時にはいなかったよな?という面々。
「さぁ、やるぜ!」とばかりに、リハーサルをスタート。
状況は変わらず、音響スタッフもオペもいない。
また、さっきまでの状況を見ていた年上大学生達はきっと‥私がオペだと思っている。
「もうちょっとがっつり歌声をきかせてください」
「全部の楽器の音量をあげてください」
リハーサル中、なげかけられる注文。
ちょっとソフトな口調で書いてみたが、実際は「迫力が出~へんやろがぁ~。もっと音量を上げろや~」みたいな調子である。
いやいや音量は上げられないのだよ。
と思いつつ、注文に応えないとおっかないので音量を上げる。
すると、雑誌に書かれていた通り、『スピーカーの音量を上げすぎると「ハウリングしやすくなる」』がここに実現。
「ハウリングする」を簡単に言うと、体育館、会議室、宴会場、イベント会場などで、マイクを使用して拡声している際に耳にする「キ~ン」や「ボー」という音を発生する現象のこと。(TOA-音空間)
リハーサル中‥
これを繰り返しつつ、リハーサル終了。
年上大学生達は、スピーカーから出る音量に不満のようで、ちょっと眼光鋭い目線を私に投げかけて、舞台を降りて行った。
お先に失礼します。
陽もかげり、近くで発電機がゴーゴーいう中、ちょっと薄暗い白熱球に明かりが入る。仮設舞台上では、真夏の夜のライブがスタート。
出演順も進み、自分たちのバンドの出番が終了。予期せぬ音響オペレーターも、無事に終えた。
舞台転換後に、次のオラオラ系大学生バンドが登場。
そのまま音響卓についていると‥再び「もっと音量をよこせ!」と目線での合図が来る。
曲と曲の間のMCでも、マイクのグリルを握りしめて話すので、何を言っているのかがイマイチよくわからないというおまけつき。
そうこうしているうちに、うちのバンドのメンバーが「帰る準備が出来たんで、そろそろ帰るけど~」と呼びに来た。
遠くを見ると、軽トラックが出発を待っている。
会場に一人残されても、帰る術のない私。
オペを途中放棄するのも気が引けるが、帰れなくなっては仕方が無い。申し訳ないが、引き揚げることに。
お先に失礼するにあたって、せめてもとオラオラ系大学生バンドの「全部の楽器の音量をあげてください」という注文に応え、出来るだけ音を大きくしておいてあげた。
私が軽トラックに乗り込んだ時、ちょうど演奏が終わり、曲間のMCに入った。
それと同時に「キーン」という音が聴こえてきた。
あれ?ちょっと音を上げすぎたかなと思ったけれど、後の祭り。時すでに遅しである。
「キーン」という音をBGMに、軽トラックはお家に向かって「ブーン」と出発。
何事にも原因と理由がある。
「キーン」となるのは、あの状況で音量をあげることに無理があるのだ。
そして、私はしがないただの浪人生。音響さんと呼ぶには程遠い人なのだ。