音楽教室やピアノ教室の発表会は、春休み・夏休みに行われることが多い。
私達もホール管理として立ち会わせていただことが多く、毎年、身体も技術も成長した子供さんの様子がわかるほど馴染みの教室もある。
ただ、今年は新型コロナウイルスの影響もあり、発表会も…延期または中止が多かった。
そんな中、ひとつの相談からはじまったプロジェクトがある。
今だからできる合唱のカタチ
梅雨も終わりかけの頃、いつもお世話になっているピアノ・声楽教室の先生から舞い込んだご相談。
9月に開催予定の発表会。
感染予防対策を徹底した上で行う開催予定なんですが、参加者全員参加の合唱はさすがに難しい。。なので、リモートで録音した声を合わせて合唱にすることができないでしょうか。
なるほど。
確かに今、合唱は‥飛沫感染の観点から考えると、実施は難しい。
でも、だからこそ、いつもと違うチャレンジができるかもしれない。
個別で録音した声を合唱にするというアイデアに驚きつつ、とても面白い!と思った。実現できると、参加された方にとっても楽しい体験になる。
ただ、幾つか問題がある。先生の熱意を形にするべく、どんな方法なら実現できるか検討してみた。
最大の問題は、皆の録音環境を合わせること。
例えば、スマートフォンで伴奏音源を流しながら歌を録音するとなると、伴奏再生用と録音用のスマホが2台必要かもしれない。
また、音量も個体差がでてしまう。
年齢も様々だし、声が大きい子もいれば、小さな子もいる。スマホとの距離感など、いくらガイドラインを設けても、同じ状況で録るのは難しい。
そして何より、この方法では、声と同じく伴奏も同時に録音されてしまう。
仮に生徒さんが10人だとしたら、歌声と一緒に伴奏も10コ存在することになり、伴奏だけを消すことはできない。
それぞれに録音して‥合わせると‥
10人の歌声で合唱♪
でも、伴奏も10になってしまう!
そこで考えた挙句、行き着いたのは、先生宅をレコーディングスタジオにすること。
生徒さんがレッスンに来られた際、“同じ伴奏・マイク・距離感という皆が同じ環境で録音することがベスト”と判断した。
これによって、ひとつの伴奏で、歌声だけを収録することが可能になる。
ただ、生徒さん数も多いため、みなさんのスケジュールに合わせて‥隊長が録音を担当するとなると時間も予算もかさんでしまう。
そこで、録音機材一式を貸し出して、録音を担ってもらう提案をした。
先生からは「出来ますかね‥?」という不安の声もあったが、機器に強いご家族の協力を得られそうだということ、何より先生との長年に渡る信頼関係もあり、できる!と判断した私達。
早速、約半月にわたる合唱プロジェクト~録音編~ がスタートした。
レコーディングといえば…ヘッドホンとポップガード?
まずは、先生宅へ録音機材をセッティング。
簡単に録音してもらえるようセッティングを行い、使い方をしっかりと伝授。
まずは、ピアノ伴奏を録音した。
次に使い方のレクチャーがてら、先生の歌録音を行う。
隊長の「大丈夫そうですね。いけますいけます!」の言葉に背中を押されてか?録る側も録られる側も少々緊張気味ながら、無事に完了。
もし録音中、何らかのトラブルが起きたら、その時はリモート対応で臨むことにした。
そして、いよいよ合唱プロジェクトの録音が始動!教室から収録の様子がLINEで届く。
緊張しながらも、皆さん楽しく参加してくれているようで微笑ましい。
一度だけ機材トラブルがあったけれど、リモートで無事に解決し、その後は順調に歌声が収録されていった。
先生によると、記録写真を撮る際、生徒さんが行う仕草が共通しているらしい。
それが「ヘッドホンを手で押さえつつ、マイクの前にセッティングされたポップガード(ウインドスクリーンともいう)に向かう。」というもの。
マイク+黒いあみあみ+ヘッドフォン=本格的レコーディング♪
レコーディングといえば、こんな感じというイメージがあるらしく、記録写真を見ると、みんな一様に楽しんでポージングしていた。
ミュージックビデオなどの影響は大きいな、と気づかされる。
大きなトラブルもなく、皆さんノリノリでレコーディングに望んでくださり、無事に30数名の歌声が記録された。
でも、驚いたのが、自分の歌声を聞くのは抵抗がある‥という人が多かったということ。
みなさん。合唱になるとわかっているからこそ、楽しく参加できたらしい。
ステージでみんなで歌う時の感覚までも、ある種、再現できているかもと思った。
合唱団を結成します♪
歌声収録が終わったという連絡を受けて、収録機材と録音データを回収。ここからが私の仕事だ。
収録データのリストにそって、メロディー、女性コーラス、男声コーラスの三部に分かれた歌声を一つ一つ確認していく。
あれ?この声はさっき聴いた気がすると思っていたら、苗字が同じ。
なるほどお姉ちゃんか!と兄弟姉妹の声の特徴を発見したり、元気すぎるゆえに、ちょっと音程がズレちゃった歌声は、そこだけを音量調整したり。
緊張しているせいか、ちょっと歌い出しがズレている歌声は、遅れが目立たない程度にタイミングを微調整。
それぞれの歌声の個性を抑え過ぎないように音量バランスをとっていく。
画面左に見える波の列が、歌声のデータ。
これだけ大勢の歌声をまとめたのは、私としても初めての体験。
調整の最後になる頃には、楽譜を見なくても、各パートを歌えるようになっているという、なかなか大変な作業だったが、全員の声を合わせて再生した時は、感動した。
声が重なり合うという合唱の醍醐味が再現されていた。
一人一人の歌声が今を生きている証‥というと、少し大げさかもしれないが、それぞれの個性ある声が尊くて、歌声の重なりがとてもリアルで、胸に響くものがある。
ジャケットには、レコーディング風景の写真を一面にちりばめて作成。
盤面には、録音を担当してくれたご家族の手書きのイラストを印刷した。
2020年の新型コロナウイルスは、たくさんのものを奪ったけれど、今だからできたことや見えたこともある。
みんなで歌うことはできない。
でも、みんなの歌声を合唱にして残すことができた。
このCDは、きっとずっと、記録にも記憶にも残ると思う。そんな作品に関われたことに感謝です♪