リファレンスCDというものがありまして
音楽は環境によって、聞こえ方が異なる。
場所によっては、やたら低音が良く響いたり、逆にまったく聞こえなかったり、なんてことが起こる。音響エンジニアは、そのような音の響き方の特徴や環境の特性を把握した上で、収録用マイクを立てる位置やスピーカーの音質の調整などを行っている。
どうやって確認するかというと‥ひとつは「チェックワン・ツー」などでお馴染み、マイクを通しての確認。
またもう一つは、外部のスタジオを利用する時や、初めて訪れた場所(コンサートホールなどで録音するときは機材を設置する部屋、コンサート音響で行く会場など)では、聞きなれたCD(音源)を再生してみてどんな風に聞こえるのか、その場所にはどんな特徴があるのかを確認して把握する。
その時に用いるのが「リファレンスCD(音源)」といわれるものだ。
音響さんがリハーサル時や準備中に‥大音量で音楽をかけているときがありますが、それはただ好きなCDをかけて楽しんでいるわけではないのです。それも仕事なのであります。
リファレンスCDの選び方
「リファレンスCDの選び方」といえば、
・自分が良く聴きこんでいる。
・低音から高音までバランスよく出ている。
・楽器の配置(定位と言い、楽器がどこの位置から聞こえるか)が分かりやすい。
・歌と伴奏(カラオケ)のバランスがいい。(歌が伴奏に埋もれすぎず、出すぎず)
なんて言われることが多い。
私も、自分が良く聴きこんでいる=何度でも聴ける自分の好きな音楽というのは、リファレンスCDには必須条件だと思う。
ただ、極端に偏ったモノやクセの強いものは不向きなものが多い。
例えば「和太鼓、特に大太鼓が好きなので、大太鼓CDをリファレンスに♪」なんてことになると、低音の響き方しか確認できない為ちょっと難ありかと…リファレンスCDのチョイスもバランスが大事なのだ。
その他にも、レンジが広い=小さい音から大きい音まであるという意味、ことも大切。音数が少なめな方が適していると言う方もおられる。
リファレンスCDの王道?
“音響・録音業界指定の共通リファレンスCD”というものは無いのだが、「リファレンスCDといえばこれ!」という定番のものがひと昔前?、いやかなり昔か?にはあった。
それがドナルド・フェイゲンの「Night Fly」というアルバム。
リリースは1982年という今から半世紀以上前の作品。
緻密の作られたサウンド故に「リファレンスCDといえばこれ!」になっているのかなと思う。
そういえば、この作品に参加したレコーディングエンジニアのセミナーを聞いたことがあるのだが「こんなレコーディングに参加するのは二度とごめんだっ。作りこみ方、こだわりが超細かすぎるぜ…(泣)」なんてことを言ってた。
どのくらい細かいかというと、一日かけて録音したパートをさらに2・3日かけて修正・調整する、という一歩進んで二、三歩下がるという具合らしい。
今ならアマゾンプライムでも聴けます。興味のある方は是非。
私のリファレンスCD選
例にもれず、私にもリファレンスCDが存在する。
ただ、「必ずこのCDでチェック!」みたいなやつは無くて、2年周期くらいでコロコロ変わっていく浮気性。
そんな中でも、2年以上リファレンスCDで聴き続けたCDがある。それがこれ。
京都の3人組バンド、*SANISAIの「三感四音」というアルバム。
*SANISAIは、女性1人、男性2人からなるバンド。SANISAI Website
FM京都で聴いたことをきっかけに、カナート洛北(京都市左京区のショッピングモール)でアルバムを発見して購入。
このCDは、日本有数のサウンドエンジニアである**飯尾芳史(いいおよしふみ)氏が、録音&調整を行っている。
**YMO、槇原敬之、SMAP、松たか子、中島美嘉、竹内まりや…他の作品に参加する超スーパーサウンドエンジニア。
とにかく、録音された楽器の音質、楽器音量バランスも私の好きな感じ。
今でもリファレンスCDとして使うだけでなく、その日の自分自身の聴こえ方(体調&耳チェック)を確認する、なんて用途でも聴いている。
この「三感四音」を聴き始めて間もない頃、友人繋がりで知り合ったレコーディングエンジニアF君がうちのスタジオにやってきた。
F君は、私よりもかなり若いのだがスタジオ経験豊富な音楽人。
少し東北なまりで、敬語&タメ口を上手に使い分けるフランクな奴だ。
そのF君、三感四音CDを見るなり「ありちゃ~ん、な~んでこのCD持ってるの~?」(隊長は、一部の知人・友人からは「ありちゃ~ん」と呼ばれている)と言ってきた。
はて?と思い、アルバムのクレジットを見るとそこにはF君の名前と、ミュージシャンと共に若干固めの笑顔で写真におさまる彼。自分がリファレンスにしていたCDを録音したエンジニアがまさかうちに来るなんて!いや~世の中わからないものである。
うちのスタジオで録音したCDが誰かのリファレンスCDになる…なんて日が来るかどうかは不明だが、そんなCDを生み出せたら…というのが、私の儚い目標の一つである。