先日、ダンスミュージックを作曲している知り合いの若者が「結構な数の楽曲が出来たので、一度、聴いてくださいよ~。」と、スタジオにやってきた。
彼の作っている音楽は、EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)と呼ばれ、シンセサイザーや、リズムマシン等を用いコンピューターで作曲を行う。
機材のセッティングも終わり「じゃぁ、聴いてみましょう。」と試聴会が始まると、若者は「あれ?なんだかいつもと聴こえ方が違う」と言い出す。
何で聴くか(スピーカー、ヘッドホン、イヤホン等)によって、同じ音楽・曲を聴いていても、全く違って聴こえることがある。その話をすると、意外に知らない人もいて、びっくりされることも多い。
スタジオ用モニタースピーカー
録音スタジオは、音を扱う場所。当然、スピーカーが置いてある。
このスピーカーは、モニタースピーカーと呼ばれている。
東京都内のスタジオでは一本100万円以上のモニタースピーカーがあるなんてのもざら。
地方のスタジオでも、数十万円クラスのモニタースピーカーが置かれているところも多い。一応、うちのスタジオにもモニタースピーカーがあるのだが、残念ながら、一本が数十万する代物では無いのだ。
一本100万円のモニタースピーカーというのは、当然のように良い音がする。
ただ、どんな音でも”いい音”で聞こえるという事ではなく・・・どちらかと言うと、原音に忠実に聞こえるという感じだ。
モニタースピーカーは「どんな音で楽器や声が鳴っているか?」「どんな音で録音できたか?」を確認する為にあるのだ。
「あれ?聴こえ方が違う」
先ほどの若者が言う「聴こえ方が違う」というは「このスタジオと家では、低音の聴こえ方が違う」というものだった。
「モニタースピーカーは何を使っている?」と聞いてみると、KRKというメーカーのものだった。世界的に有名な会社で、そのメーカーの製品は、DJ達が良く使っている。
若者が言うには、作曲は二階の自室で行っていて、あまり大きい音は出せないとのことだった。
残念ながら、「人間は、小音量になるほど低域の聴取感度が落ちていく」傾向がある。ある程度の音量で聴かなければ低音は聞こえにくいのだ。
音楽制作者にとって、小さな音しか出せない住宅事情は、なかなか悩ましいものである。
再生機器による音の違い
うちのスタジオでは、CDの通信販売業務も行っている。
知り合いのアーティストさんのCDを販売することを目的に始めたものだが、何年もやっていると色々なご意見に遭遇する。
これまで頂いたご意見の中には「youtubeで〇〇さんを見て、CDを探してました。ようやく手に入れられて嬉しい」や「〇〇という曲を聴くたびに、昔、住んでいた場所の情景が目に浮かぶ。」というような嬉しい声から‥
配送時に何かしらの原因で「CDケースが割れていた」まで。(もちろん、ケース割れは交換で対応させていただいております。)
そんな中以前「CDをかけたら、音が飛ぶ」というお声をいただいたことがあった。
何かの不良品が混ざったのかも知れないと思い、音が飛ぶというCDを送っていただき、こちらで確認済みの新しいCDをお送りした。
音が飛ぶというCD。
こちらで確認してみたけれど、そのような症状は見られない。そして、再度お送りした新CDを聞いてもらったら、また音が飛ぶとのこと。
これは、CDに原因があるわけではない。
もしや、再生する機械側に問題があるのかもと思い‥何で聞いているかをたずねてみたら、ラジカセだった。
その型番をネット検索してみると、音質よりも手軽に音楽を聴くことを優先しているような感じのモノ。私の見解では、いい音ではないだろうと推測される代物だった。
そこで正直に‥こちらで再生はできていたのでCDに問題がないこと、もしかしたら、ラジカセに不良の可能性がある旨をお話した。また、他の機械で再生してみてもらえませんか?とお伝えしたら、数日後、他の機械では問題なく聞けたとご連絡をいただいた。
CDの不良ではなかったこともあり、一転、親切にしていただいて~と感謝される展開へ。
そして、この際新しい機械を買うからどこのメーカーがいいかと相談をされたので、BOSEのスピーカーは手頃で比較的いい音で聞けると思いますよ、とお伝えしたところ‥数日後、ビッグカメラでBOSEのスピーカーを購入されたご様子。
お客様が「とってもいい音になってびっくり!教えてくれてありがとう。」とご報告くださった。
何で聴くか、によって、音は全然変わる。
そのことを知っているだけで、驚くことなく、音の違いを感じることができる。
私は「どんなスピーカーがいいですか?」と尋ねられた際には「値段に比例して、音は良くなっていく」と答えている。
¥0の桁が増えれば増えるほど、良質な音で聴くことができるのは避けられない。
それが最も悩ましいところだ。