レコーディングやコンサート音響で音を扱うサウンドエンジニアにとって、音の入り口であるマイクは、とても重要。
歌声・楽器から収音する場合、マイクを置く位置、音源からの距離、マイクの向きなどにも注意を払っている。
一度は見たことがある?58マイク
コンサートやTVの音楽番組などでよく見かけるマイクがある。
アメリカSHURE社が製造しているSM58というマイクだ。通称「ゴッパ」。
※写真はSM58(SMは”S”スタジオ”M”マイクロフォンからきている)
値段もお手頃。
1万円程度で購入できて、コストパフォーマンスが非常に高い。
講演会や地域のカラオケ大会、司会から歌手まで、ジャンル問わず幅広く使用されている。形がよく似ている安価なSM58風のマイクもそこらで見かけるが、性能は全く別もの。
サウンドエンジニアの中には「いろいろなマイクを使用したが…結局SM58にかえり着く」とか「基準の音はSM58だ!」という方も多く、音響機材の通販サイトの口コミ評価も高い。
私は「結局はSM58にかえり着く派」では無いのだが、使い勝手の良さから、当スタジオも何本もの58を所有している。
何がそんなに良いのかといえば、まず値段の割に高音質であるということ。そして、少々雑に扱ってもきちんと音が出続けるように設計されている点だと思う。
「グリル」と呼ばれる金属の網目の部分は、ちょっとぶつけたり、落としたりすると凹んでしまうが、受けた衝撃をグリルの部分で吸収し、マイクにとって重要な音をひろう部分は保護するように計算されている。
youtubeでは「SM58を大型バスで踏ませても音が出ます」という過激な実験映像を見ることが出来る。
「象が踏んでも壊れない筆箱」なんてのがあったが、マイクの世界では「バスが踏んでも壊れないSM58」なのだ。
マイクにも指向がございます
マイクには備わる性能・性格の一つに「指向性」というものがある。
この指向性は「マイクに対して、どの方向から来た音をひろうように作られているか」というもの。
指向性には分類があり「無」「双」「単一」と分けられる。
少々乱暴だが、ざっくりと性能・性格を言うと‥以下の種類に分けられる。
「無指向性」=マイクの向きや角度などに関係なく、全方向からの音をひろえる
「双指向性」=主にマイクの前後の音を拾い、左右の音はあまりひろわない
「単一指向性」=マイクの前の方から来た音をひろい、後ろから来た音をひろわない
どんなマイクだって、音をひろっているのには変わりないが、種類によってそれぞれに特徴があり、使用場面によって使いわけられている。
前出のSM58は、”単一指向性”のマイクで、後ろから来た音をひろわないようにできている。
複数の楽器から音をひろわないといけないコンサートや、いろいろな楽器を一度に収録するレコーディングの現場では、たくさんのマイクを立てる。だから、この指向性を考えてマイクを選ぶことがとても重要。
それぞれの特性を活かしたマイクチョイスは、ひとつ腕の見せどころ。チョイスには、エンジニアの個性がでるので、勉強になって面白い。
女性の好みのタイプが違うように、マイクチョイスも様々なのだ。
指向性の仕組み
恥ずかしい話。
私も音響の学校に行くまでは指向性という名前と性能については知っているものの、その仕組みはまったく知らなかった。
さぞかし高度なエレクトロニクス技術や電気回路が存在しているのだろうとばかり思いながら、いざ音響の専門学校へ。
指向性の仕組みを学び進めていくと、マイク内部の構造にとても衝撃を受けた。複雑な回路も機器もなく、”隙間から音を回り込ませるだけ”のシンプルな構造となっていたのだ。
簡単に言うならば、快適な部屋にお邪魔したとイメージしてください。
きっと上質なエアコンが取り付けられているのだろうと思っていたら、そこには、空気や風の流れを計算しつくされた窓があっただけ、といった感じ。快適な部屋もマイクも、構造上の仕組みがとても優れている。
さらに、よくわかる身近な例として「マイクの握り方」
カラオケでロックミュージシャンのように、マイクの網網(グリル部分)を握りながら歌っている光景を目にするけれど‥私はこれが嫌い。それは、歌っている姿の話ではなく、あくまでエンジニア目線の本音。
マイクの内部には、需要な「穴」が存在している。
※それが、この穴。
この穴、波の打ち消しあいの理論を利用して、音をコントロールし、マイクの性能を決める大切な要因として、非常に重要な役目をはたしているのだ。
なので、ここを塞いでしまうのは、本末転倒。
マイクの指向性が変わってしまって、ハウリング(キ~ンとか、ブ~ンとかいうヤツです)の原因になったり、音質も少々悪くなる。
見た目的にはかっこよく?演出できたとしても、音的には残念なことになりかねないのです。
あ、小指はいくら立ててもらっても大丈夫。
なので、グリル付近だけは握らないで~♪