3/16の「レコーディングって怖い?」記事。
会議の終わり〈今日の結論〉の一文に「いい結果を生むためには、いい準備が必要だということもお忘れなく。」と書いたのだが、読者の方から「ところで“いい準備”ってどんなこと?」という質問を頂戴しましたので、今日は「いい準備」についての議論を、ひとつ。
本日の議題:“いい準備”ってどんなの?
今まで、いろいろな方々がレコーディングで当スタジオを訪れてくださった。
CD制作の目的は‥ライブ(コンサート)で販売したい、オーデション用、卒業の記念、記録や思い出録音等、様々ある。
どんな場合であっても、共通して思うこと。
それは‥準備がきっちりできているほうが、 レコーディングはスムーズに進む傾向にあるということ。
準備と一言にいっても、色々な事柄が含まれている。
サッカーの本田選手がインタビューで「次の試合も良い準備をして臨みたいと思います。」と言っておられるのをよく聞くが、この「準備」とニュアンスは似ているように感じる。
要するに‥本番(レコーディングでいうところの収録日/サッカーで言うところの試合当日)でのベストパフォーマンスをどれだけ細やかにイメージ(想定)して、それにむかって向き合ってきたか=準備なのである。
これまでに見てきて感じた “いい準備” について、私達なりにまとめてみた。
・楽曲資料に関する準備
まずは、資料が用意されていること。
資料というのは、楽譜、コード譜、歌詞など。
そんな当たり前な~とお思いの方もおられるかもしれませんが「覚えてるので~」と歌詞を印刷しないで来られる方もちらほら。
一回歌って本番終了~♪だと、大丈夫?な場合もあるかもだが、歌詞を忘れた/間違えた場合や途中から歌い直す場合など、歌詞の資料がなければ、皆で共有することもできず、時間ロスに繋がってしまう。
また、曲の構成、楽器構成、歌のパート割、テンポなどについて、できるだけ細かく打ち合わせ時にお伺いするようにしているが、楽譜などに書き入れてご提出いただいた場合、全貌がすぐに把握できてスムーズな進行に繋がる。
一年に一度、その年の集大成レコーディングを恒例にされている吹奏楽バンドの場合。
エンジニア用のバンド譜(全パートが載っているもの)も持参されていた。主旋律の楽器が曲の途中で入れ変わる楽曲だったので、楽譜があることによって、どの楽器が主旋律を受け持っているかがすぐわかって調整もしやすい。収録後、簡単に調整した音源をお持ち帰りいただくだが、調整のスピードアップが図れた分、演奏する時間に充てられた。
・当日の流れを想定している
どの曲から歌入れするのか、どの楽器から録音していくか等、当日の流れや録音する順番の想定もとても大切。
複数メンバーでの収録時、メンバー間でどう収録していくかが話し合われていなくて、来てから相談 or 録りながら相談‥そしてモメたり?なんてこともこれまでにあった。
どのように時間を使うのか。
セッティング替えはどのタイミングでするのか。
休憩はいつとるか。
そんなことも含めて準備をしていると、収録はスムーズに運ぶ。
特に楽曲によって、使用楽器が異なる場合などは、楽器ごとにまとめた楽曲の順番を検討する場合が多い。
また、休憩や食事をいつとるか、体力を回復させる時間を想定しておくことは、結構大事。
連続して音を聞いていると、判断が甘くなってきたり、疲れてきたり‥最後は「もう、これでいいや」と後悔に繋がる判断をしてしまう…なんてことも。
限られた時間内で目一杯詰め込みたくなる気持ちはわかるけど、休憩なしの収録より、休憩を上手に取り入れた収録のほうが良い結果に繋がることもある。
特に、歌の場合は、歌い手さんのコンディションにも大きく影響するので、気分のリフレッシュや体力回復のタイミングをも想定したレコーディングは、充実度にも影響してくる。
・ジャッジする人を明確にしている
何人かで演奏/歌唱する場合‥
収録中に意見が食い違ってしまう、誰の判断に従うべきなのか迷いが生じる、というようなことが起きる時がある。
プロデューサーがいる場合は、「このテイクでいこう!」「もっと○○な感じで歌ってみて~」といった風に判断をしてくれるので、そんなことにはなりえないのだが、演奏/歌唱している本人が判断&複数人いる場合は、この迷宮に入ると‥抜け出すのは、なかなか難しい。
以前に、大学生バンドを録音した時にお願いしたことがある。
そのバンドは、作詞作曲しているメンバーが曲によって異なっていたので‥
「その曲をジャッジするリーダー/責任者みたいな人を決めて、皆がそれに従うというルールでレコーディングしましょう」と提案した。そのリーダーを「神」と表現し、題して“「神」の判断は絶対システム”にて進行。
2曲収録予定だったので、それぞれの曲を作曲した人をリーダー(神)を務め‥
「ここはこれでOK」「ここは、このパターンも試してみてどちらかを選ぶ」「今のはちょっと違うので、〇〇に注意して、もう一度、間奏の後から録音しよう♪」と、神の明確な支持のもと、みんなで同じベクトルに向かって進んだレコーディング。
とてもいいチームワークで楽しそうに収録していたのが印象的だった。
もちろん、ここにあげたのは一例。
準備の内容も方法も、色々なパターンがある。
当スタジオに来る人にとって、レコーディングは非日常である人のほうが多い。
だからこそ、できるだけ“準備”にも目を向けられる環境を作れるようにと‥打ち合わせからたくさん話をして、勝手な“おせっかい”をやいている。
これが私達にとっての“準備”なのもしれない。
もちろん、どこまで準備して臨むかは、それぞれやり方があっていい。
「レコーディングの時に考えるぜ」というのもありっちゃあり。でも、準備からレコーディングは始まっているのだ。