おもしろくて切ない、じんわりと心染み入るコミックエッセイ。
大家さんと僕 / 矢部太郎
大家さんと僕これから / 矢部太郎
素朴な日常の風景度 ★★☆
時代を感じられる度 ★★★
あたたかい心のやりとり度 ★★★
● リスの視点
漫画なんだけど、漫画じゃない。これが初めて読んだ感想だった。
約2年前、本屋さんでなんとなく見本を手に取って立ち読みし、数ページ読み進めて「‥これは、おもしろい!」と、すぐレジへ。
あんまり漫画は読まないタイプの私。でも、素朴な絵のタッチと日常会話やエピソードがとても面白くて、じっくり読みたくなった。
この「大家さんと僕」は、複雑なカット割りの漫画ではなく、4コマ漫画のように整然と縦に並んだコマの中で物語が進む。ひとつのお話が短いので、とても読みやすい。
登場人物・お笑い芸人カラテカの矢部太郎さんが住むのは、一軒家の2階。1階に住む大家さんとの実話を元にしたオハナシ。
「大家さんと僕」が発売された当時(2017年)、大家さんは87歳。
漫画特有の複雑なコマ割りやベタ塗り等をしないようにしたのは、『大家さんにも読んでもらいたい』というお気持ちがあったからだそうだ。
いつも「ごきげんよう」と挨拶される、お上品な大家さん。
タクシーで伊勢丹へ行って、2000円の明太子を購入される、大家さん。
雨が降ってきたから‥と、矢部さんの洗濯物を取り入れて、お部屋の中に置いていたエピソードには、現代には見られない距離感に驚きつつ、矢部さんを思う大家さんに、ほんわかする。
また、戸惑いつつも、大家さんを思う矢部さんの優しいお人柄も素敵だ。
ソーダのことを「シュワシュワ」と表現する大家さんが、かわいいなぁと思っていたら‥
戦時中・終戦後のお話や、東京の当時の町並みなどのお話も時折あって、読みながら色々な思いを巡らせてくれる。
シリーズ累計100万部突破!
帯にある「涙の続編 堂々完結」という文字。
昨年の8月、大家さんはお亡くなりになった。
それから約一年後‥今年の7月に発売になった「大家さんと僕 これから」。変わらずに、優しくて、おもしろくて、切なくて‥とても愛のあるオハナシだった。
漫画の中で、矢部さんが大家さんとお話していると、戦時中の体験や情景が突如まざるため「時空が歪むようだ」という場面がある。
でも、私は読み進めながら、この本は “ 時代や世代を越えて届く一冊 ” だなぁと感じた。
心にじんわり響きます。ぜひ読んでみてください。
出版・新潮社さんのYoutubeより
★★「大家さんと僕」公式HPで試し読み〈3話分〉ができます♪→Click ★★
内容紹介
1階には大家のおばあさん、2階にはトホホな芸人の僕。挨拶は「ごきげんよう」、好きなタイプはマッカーサー元帥(渋い!)、牛丼もハンバーガーも食べたことがなく、僕を俳優と勘違いしている……。一緒に旅行するほど仲良くなった大家さんとの“二人暮らし”がずっと続けばいい、そう思っていた――。泣き笑い、傑作漫画。
2017/10/31発売《第22回 手塚治虫文化賞 短編賞受賞》(「大家さんと僕」公式HPより)
季節はめぐり、初めての単行本が大ヒットとなった僕は、トホホな芸人から一躍時の人に。忙しい毎日を送る一方、大家さんとの楽しい日々には少しの翳りが見えてきた。僕の生活にも大きな変化があり、別れが近づくなか、大家さんの想いを確かに受け取り「これから」の未来へ歩き出す僕。美しい感動の物語、堂々完結。
2019/06/26発売(「大家さんと僕」公式HPより)